昆虫がもっと大きくなったら


カブトムシポンチ絵(小) カブトムシポンチ絵(大)

 昆虫はあまり大きくなれず、大きくなっても、トンボの祖先ともいわれているメガニューラの例でも分かる通り、現在のトンボのせいぜい4倍くらいであろうと想像されます。そこで、昆虫が4倍もの大きさになったらどんなことが起こるか考えてみましょう。
 昆虫が大きくなれない理由の一つに、成長のたびに脱皮しなければならないという危険な作業が挙げられます。呼吸のための器官は体表面積が体の内部にまで複雑に入りこんでいますが、脱皮の際に全部脱ぎ捨てなければなりません。これでは、サイズが大きくなればなるほど脱皮は困難になります。つまり、気管を脱皮する難しさが、昆虫のサイズを決めているといわれるくらい昆虫達の脱皮には危険が伴います。

 しかしここでは、物理的な理由のみで考えた場合にどうなるかをみてみましょう。

 下表に大きさがn倍になった昆虫の相似則を示します。表中、昆虫1は普通の大きさの昆虫、昆虫nは普通の昆虫がn倍になった昆虫とします。
 まず、「速さ」はどうなるでしょう。表より、V4×V1=2×V1となり、4倍の大きさになると、速さは普通の昆虫の2倍になります。つまり、大きさは4倍でも速さは2倍というわけです。
 
 では、「時間」はどうでしょう。表より、t4×t1になります。4倍の大きさになると、時間は同じ動作をするのに普通

物 理 量 昆虫 昆虫
長さ 1 =nL1
時間 1 t1
速さ 1 n×V1
周波数 1 n=f1/

の昆虫の2倍の時間を要することになります。つまり、4倍の大きさになると、スローモーションになるわけです。
 ぬいぐるみのゴジラは、中に入った人間は普通の速さで演技し、撮影するときに高速度撮影をして、映写するときに普通の速さで回して、この効果を再現するという仕組みはご存じでしたか。さらに、「周波数」はどうでしょう。表より、f4=f/=f/2 より、4倍の大きさになると、羽音振動数は普通の昆虫の半分になってしまいます。つまり羽ばたきが半分になるわけです。
 
 蚊の羽音周波数は350〜600ヘルツですが、ガガンボ(よたよたしているあの大きい蚊で、刺すことはありません)のように大きくなって気持ちが悪い上に、羽音も175〜300ヘルツと音が下がってきます。ドスの利いた蚊になること請け合いです。蚊の血を吸う部分も大きくなり、最初の一刺しは随分痛いかも知れませんが、針の直径も4倍になり、大きすぎて刺せない可能性も出てきます。人間の血を吸う吸血管は、今の大きさが最適なのでしょうか。

昆   虫 普通の昆虫の時速(km/h) 4倍の昆虫の
時速(km/h)
イエバエ 8 16
モンシロチョウ 8 16
シオカラトンボ 15 30
アゲハ類 19 38
スズメバチ 20 40
イチモンジセセリ 30 60
ウシアブ
ヤンマ類
エビガラスズメ
50〜100 100〜200

 左の表では、4倍になった昆虫の速さを求めてみました。イチモンジセセリで60km/h、ヤンマなどは100〜200km/hで、顔にでも当たれば大けがをするスピードです。オニヤンマの重さは約1g(1円玉の重さ)ですが、4倍になれば、重さは64g(100円玉が1枚5gですから、100円玉にすると約13枚分)にもなり、捕虫網も破れてしまうかもしれません。モンシロチョウなども自転車のスピードに近くなり、春がさっと通り過ぎていくようで風情がなくなりそうですね。

 昆虫採集では標的が大きくなる分採りやすくなりますが、速さが倍になると逆に採りにくくなり、アゲハなど捕まえて胸を押さえる時は手加減が難しくなります。
 実は、大型化すると速さや羽ばたきが変わることよりも、もっと大変なことが起こります。それは「食料問題」です。大きさが4倍になるということは、体積が64倍になるということです。ということは、胃袋の大きさも64倍になるということです。我が家の1日の食糧が、今の64倍になったらどんなことが起こるか考えただけでもぞっとします。

 昆虫と植物の関係は、1億年近くかけて築きあげられたものです。したがって、現状で丁度バランスがとれているわけです。そういう環境のなかで、昆虫の大きさが4倍にもなれば、昆虫の世界に食糧不足が起こり、それが人間の食生活にも大きな影響を与えることになり地球規模の問題になってきます。
 このように、昆虫のサイズが変わるということは、外見上の問題だけではなく、自然界全体に影響を及ぼす大事件になるというわけです。今のところ、昆虫の大型化などはSFの世界以外に考えられませんが、「if」 を考えてシミュレーションの世界を楽しむのも頭の体操には良いかも知れません。