ミノムシ


1.蓑虫は鳴くか

蓑虫(ポンチ絵) 枕草紙に「みのむし、いとあわれなり。鬼の生みたりければ、親に似てこれもおそろしき心あらんとて、親のあやしききぬひき着せて「いま秋風吹かむをり来むとする。まてよ」といひおきて、にげていにけるも知らず、風の音を聞き知りて、八月ばかりになれば、「ちちよ、ちちよ」とはかなげに鳴く、いみじうあわれなり」とあります。
 日本では昔から、ミノムシを鬼の捨て子で、秋風の吹くころになると「父よ、父よ」と、父親を慕って鳴くというのである。無慈悲な親に粗末な着物をきせられたかわいそうな子どもの姿とが重なって見えるからでしょうか。
 少年時代、近所のおじさんに「ミノムシの鳴く声を聞いてご覧。チチヨ、チチヨ」と鳴いているから」と教えられ、ミノムシを見つけるたびに注意して聞いてみましたが、ついに聞くことは出来ませんでした。不思議に思って、何匹かの蓑虫の蓑をはいでみましたが、鳴くような体つきではありません。おかしいなあとは思いましたが、その後余り深く追求しませんでした。それが分かったのは、ずっと後になってからでした。つまり、ミノムシは鳴かないのです。鳴く声の正体は、すぐ近くにいたカネタタキであったというわけです。

カネタタキ

 和名のカネタタキは、「チッ、チッ、チッ」という鳴き声が、小さな鉦(かね:仏具)を叩いているように聞こえるからつけられた名前です。この虫はすばしっこく、なかなか見つけることが出来ないため、平安時代には、この虫の「チッ、チッ、チッ」という鳴き声が「父よ、父よ」と聞こえたらしく、ミノムシが鳴いているのだと信じ込んでしまったようです。カネタタキは一匹のときは「チッ、チッ、チッ」と聞こえますが、雌雄一緒にいて鳴くときは声が重なり合って「チチヨ、チチヨ」と聞こえるそうですよ。そうかも知れないなと思いながら、未だに私は「チッ、チッ、チッ」という鳴き声しか聞いたことがありません。
 このミノムシは不思議な昆虫で、雄は蛹の期間が過ぎると、ミノガという成虫になって高い木の梢を飛び、きわめて短命です。雌はなんと一生、蓑から出ることはありません。やがて蓑の中で卵を産みますが卵の数が多いため、カラが卵でいっぱいになると干からびて死んでしまいます。何とも、哀れというほかありません。
 2〜3週間して卵がかえると、幼虫は母親の乾いた体やカラを使って蓑を作ります。成長とともに蓑が小さくなってくると、口から糸を出し、近くの葉や枯れ枝を食いちぎって蓑の増築をします。


2.蓑虫の蓑

 とても寒い冬、たくさんの虫が冬支度をしますが、ひときわ変わった虫がいます。それが木からぶら下がっている虫、蓑虫です。子供の頃、よく遊んだ思い出のある人も多いでしょう。蓑虫は、ミノガという蛾の幼虫。しかし最近は、都会で蓑虫を見かけることが少なくなりました。
 
 蓑虫が蓑(みの)を作るのは、冬を越すためです。蓑の中に閉じこもって、枯れ枝にひっついています。蓑の作り方は、葉の巻き付け方が下手なものから、本物の雨具の蓑にそっくりなものまで、種類によって様々に異なります。身体のサイズに合わせ、口から出す糸で枯れ葉などをつなぎあわせ、少しづつミノを大きくしていきます。そうして冬を越すと、雄の蓑虫は羽化します。実は蓑虫は子孫を残すためだけに羽化するため、ミノガに口はなく、餌を食べることはありません。一方、メスはいつまでたっても羽化しません。実は雌は完全に卵を産むためだけの成虫になるため、手足はおろか、目などの感覚器すらありません。
 
 蓑虫の蓑をよく見てみると、蓑虫が出した糸でフェルトのように裏打ちをされています。いわば、内側はカイコの繭のようになっているのですが、それならば、同じように蓑虫の蓑から糸がとれるのでしょうか!カイコの繭から1500mもの糸がとれるのに対し、蓑虫はわずか20cmでした。これではとてもとても布なんて作れませんね。しかし、蓑虫自身は糸一本で木からぶら下がっています。しかし、風速9m位でぷっつり切れてしまいます。でも、少しぐらいの風ならへいちゃらです。
 
 蓑虫の蓑は冬を越すのに役に立っているのですが、いったいどれほどの効果があるのでしょうか?真冬の環境を人工的に作り出し、「蓑あり蓑虫」と「蓑なし蓑虫」がどれぐらい耐えられるかチェックした人がいます。すると、「蓑なし蓑虫」は小さく丸まってしまったのに対し、「蓑あり蓑虫」は平気。温度計でも差が出ました。蓑虫の蓑は内部が糸でフェルト状になっていて、空気を溜める構造になっているため、温度変化から内部を守ることが出来るのです。  
 蓑虫が日本から少なくなっている本当の理由、それはヤドリバエという寄生虫が日本にやってきて、蓑虫に寄生するようになったからだそうです。 


3.蓑虫の寄生虫

 私たちが良く見かける大きな蓑虫は、オオミノガという種類です。その数は多く、良く目につくので、冬の季節を代表する「冬の風物詩」として親しまれてきました。
 ところが、今から7、8年前(1995年頃)から、急に見かけなくなりました。というのは、中国大陸からわたってきた、オオミノガヤドリバエという寄生バエに、寄生されるようになったからです。このハエが卵を産んだ葉をオオミノガの幼虫が食べると、体の中でハエの幼虫が孵り、ミノガはアゲハの幼虫やモンシロチョウの幼虫と同じように、生きながら餌にされてしまいます。
 寄生されたミノガの幼虫の体から、多いときは一度に30匹ものハエが羽化するといわれています。蓑虫は簡単に移動ができない種ですから、その被害はかなり大きいようです。
 このハエは、東南アジアや中国南部など熱帯地方に棲息していたといわれており、中国では十数年前から、木の新芽を食べるオオミノガを駆除するために、このハエが導入され、駆除に成果を挙げたといわれています。このように、熱帯地方に住むハエが何時の間にか日本に定着したようです。オオミノガヤドリバエは今のところ、東京あたりまで北上し、分布を広げているようです。オオミノガの北限は関東地方とされていますから、絶滅の可能性さえあるわけです。