60枚/匹の葉が必要   


表1.クロアゲハの摂食量
摂食量(mm2 日数
1 130 2.5
2 380
3.0
3 1,326 2.5
4 6,298 4.5
5 37,162 8.0
合計 45,296 20.5

 クロアゲハの食草はカラタチ、カラスザンショウやミヤマシキミです。一匹の幼虫がどのくらい葉を食べるかを調べた例があります。
 矢島 稔氏が20年程前に、食草を与える前に葉の面積を求め、24時間後に食べ残しを取り出し、その差の面積をmm2で求めています。記録は孵化直後から毎日行い、蛹化するまで続けています。結果は右表の通りです。
 これは、10匹について行った平均値で最大量は 47,495mm2、最少量は43,100mm2だったそうです。5%前後の誤差ですからまあまあの結果です。標準的なみかんの葉の大きさは約2,000mm2ですから、単純に割れば23枚ということになりますが、ほとんどの蝶はあちこち蚕食しますから、実際にはその3倍程度の60枚前後の葉がないと一匹のクロアゲハは成虫になれないと結論付けています。
 
このことを調べるだけでも大変な作業ですが、ここで終わってしまってはちょっと勿体ないですね。左記の表からどんな情報が引き出せるのか少し考えてみましょう。
 表だけでは、なかなか全体の流れを掴むことができません。
 
 そこでまず、齢と日数の関係を図に示しておきましょう。
1.齢ごとの日数

図1. 齢ごとの日数

 この図からは、1から3齢幼虫までは日数はあまり変わりませんが、4齢、5齢と齢を重ねるごとに日数は少しずつ増えていくことが判ります。

2.通常のグラフ
 齢と摂食量の関係を通常のグラフで表示すれば図2.のようになります。このグラフからは「1、2、3齢位までの摂食量は非常に少ないことがわかりますが、4、5齢では急に摂食量が増えることが分かります。しかし、このグラフからは定性的なことが判るのみで、定量的なことは殆ど判りません。

図2. クロアゲハの摂食量(mm2

 ここで、データに汎用性を持たせるために、摂食量を1日当たりに直して表示しておきましょう。

図3. クロアゲハの摂食量(mm2/日)


3.片対数目盛のグラフ

 さてここで、図3.から情報を引き出してみましょう。横軸はそのままの真数目盛とし、縦軸を対数目盛にすると、図4.のようにデータはほぼ直線上にうまく乗ってきます。

 図4. クロアゲハの摂食量(mm2/日)

これは何を意味するかというと、データの5つの点は、グラフから 大雑把に

   

   (ここに、xはx齢幼虫、yは摂食量)


で推測することが出来るということが判ります。
 グラフには実験のプロットと最小自乗法で近似した直線が描かれています。
1齢から5齢までの葉の面積を式から求めると、以下のようになります。

x=1の時、y1=15.4×e1.1×1
x=2の時、y2=15.4×e1.1×2=3.0×y1
x=3の時、y3=15.4×e1.1×3=3.0×y2 
x=4の時、y4=15.4×e1.1×4=3.0×y3
x-5の時、y5=15.4×e1.1×5=3.0×y4 

 したがって、2齢幼虫は1齢幼虫の3.0(e1.1=3.0)倍、3齢幼虫は2齢幼虫の3.0倍、4齢幼虫は3齢幼虫の3.0倍の食草が必要であることを簡単に判ります。

 もし、蝶の摂食量が片対数方眼紙上で直線で表すことが出来るということが明らかになれば、1齢から5齢までの観察は必要なく、1齢から3齢位までの観察だけで、5齢の摂食量が大雑把に推定できるというわけです。

 以上より、通常のグラフでは「5齢になってから摂食量が急に増える」という情報しか得られなかったものが、座標軸の目盛を変えることによって、
(1)「幼虫は齢を1つ重ねるごとに3.0倍の食草が必要である」という情報が得られると同時に、
(2)1齢から3齢間での摂食量が判れば、それ以後の「食草の量を正確に把握できる」という手掛かりが得られるわけです。
 このように、データをうまく整理することによって、新しい知見が得られることがよくあります。データを整理する場合には、One step up を狙いましょう。
 なお、グラフにプロットするデータは平均値ではなく数値処理する前の生データを10匹分全てを用いるのがベストであることは言うまでもありません。
 

関連サイト 表のデータをグラフでうまくまとめる テントウムシとアブラムシ